【館長インタビュー】熊本・錦町の戦争遺構「ひみつ基地ミュージアム」が世代を超えて伝える平和への思い
熊本県錦町、山の中にあった旧海軍の秘密基地。戦後70年を経てミュージアムに。マンガをきっかけに平和を伝える館長の思いとは。

📖 目次
発見からわずか3年!熊本・錦町「ひみつ基地ミュージアム」とは
人吉市の隣にある球磨郡錦町。球磨川と川辺川に挟まれた台地に、数多くの地下軍事施設が発見されたのは、戦後70年たった2015(平成27)年。その後わずか3年ほどで広大な土地にオープンしたのが、『山の中の海軍の町にしき ひみつ基地ミュージアム』です!
今回、その中心人物である、蓑田興造館長にお話を聞くことができました。
すべての始まりは町民の思いと一冊の「マンガ」
きっかけは「子どもたちに分かりやすく伝えたい」という願い
すべての始まりは、町民の思い。
「マンガなどで、子どもたちにわかりやすく戦時中のことを伝えれば、いじめも減るのではないか」
マンガ『ペリリュー』原画展に込めた館長の思い
――かのん(以下、か):アニメ化される『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』の原画展が開催されましたね。戦争マンガですが、ほのぼのとした絵柄ですね。
――蓑田館長(以下、蓑):悲惨なペリリュー島での戦場が描かれていますが、かわいい絵柄で読みやすいでしょ。子どもたちや若い人にも、戦争を知るきっかけにしてほしいんですよ。
2021年4月に『ヤングアニマル』(白泉社)誌上で最終回を迎えたので、作者の武田一義先生(下の写真左。右は蓑田館長)に、企画展をさせてほしいとお願いしました。7月末のコミックス最終巻11巻発行のタイミングで、夏休みに原画展をさせてくださいと。
武田先生も白泉社さんも協力的で、ありがたいです。
そもそも、『山の中の海軍の町にしき ひみつ基地ミュージアム』のコンセプトを考えた際、「戦争に興味がある人だけ見ればいい施設なのか。いや、幅広い年代の人に知ってほしい。子どもたちにも、戦争をわかりやすく伝えたい」ということになりました。マンガやアニメは、重要なきっかけになりますね。
なぜオレンジ色?シンボル「赤とんぼ」が伝える歴史の真実
戦闘機ではなく練習機だった「人吉海軍航空基地」
――か:館内に入ると、オレンジ色の飛行機が見えてビックリします。戦闘機って、カーキ色のイメージなんですが……。
――蓑:あれは戦闘機ではなく、練習機の実物大模型です。訓練生が乗っているので「まだ練習中です」と目立つように、オレンジ色に塗ったんです。若葉マークのようなもので、愛称は「赤とんぼ」。2階から見ると納得しますよ。
村ひとつ分の広大なエリアに隠された軍事機密
――か:こんなに目立つ飛行機があるのに、「ひみつ基地」だったんですか?
――蓑:実はここは、太平洋戦争中の1943(昭和18)年11月に建設された「人吉海軍航空基地」だったんです。終戦を迎える1945(昭和20)年8月まで、飛行予科練習生の教育や、特攻隊の訓練、地下工場など、様々な役目の部隊が、村ひとつ分の広大なエリアの中で活動していました。また6000名もの飛行予科練習生が訓練を行い、終戦間際には神風特攻隊の疎開訓練場所にもなったんですよ。
戦時中は、地下施設自体が軍事機密。詳細は地元にも知られていませんでした。攻撃されても活動を続けるために、地下に造ったんです。
2014(平成26)年に人吉海軍航空基地の見取り図が発見されたことから、地元の有志の方々が私財を投じて研究されたんです。それを『人吉球磨は秘密基地』というマンガ冊子にして、町長宛に「戦争遺構を子どもたちに見てもらって、平和を考える機会にしてほしい。」と、手紙を出されました。
――か:海軍基地に関する膨大な研究結果ですが、マンガだと読みたくなりますね。
――蓑:「戦時中のことを知れば、いじめも減るのではないか」と、ネットのマンガを描くソフトを使って、わかりやすく工夫されたんです。
その頃、私は錦町役場企画観光課にいましたが、町長から「この地下施設をなんとか平和教育と観光に活かせないか」と言われ、プロジェクトが始まりました。調査初日に作戦室や無線室、兵舎壕など地下施設を見て回りましたが、ものすごい戦跡が隠れていたことに驚きましたよ。
リアルな戦争遺構を歩く!人気の「地下壕ガイドツアー」
ツルハシの跡が残る地下魚雷調整場を体感
――か:地下にそんな、「ひみつ」があったとは! 実際の作戦室なども、見学できるんですよね。
――蓑:はい。ここ『山の中の海軍の町にしき ひみつ基地ミュージアム』の魅力は、フィールドミュージアムです。
「地下壕(地下魚雷調整場)ガイドツアー」では、戦時中に航空魚雷を作っていた現場である地下壕を歩きます。
実物大の魚雷のレプリカもあり、戦争当時を知ることができると人気です。
「岩の壁がデコボコなのは、一つ一つツルハシで掘った痕なんだ」と、建設の苦労を偲ぶこともできます。
人口1万人の町に年間1万5000人が訪れる理由
オープン後、「近代的な歴史を学べる!」と人気を呼び、来館者は1か月で3000人。想定を超えて、1年で1万5000人。球磨郡内にとどまらず、熊本市内や九州各地からも。ご家族や、お子さん連れが多いですね。
――か:人口が1万人ちょっとの錦町に、来館者1万5000人とは、すごい数ですね。
世代を超えて楽しむための“ひみつ”の仕掛け
――蓑:常設展も、わかりやすいと好評です。航空基地にまつわる展示や、戦時中の当時の一般の人々の生活がわかる資料などがあります。
スタッフの中には、小学生の時の平和学習で、いきなり戦争の悲惨な写真を見せられて「怖い」と感じた人もいます。当館では、戦時中の人々の気持ちに心を寄せられるような展示を考えました。
音声ガイドは有名声優?『夏目友人帳』との関係は…
地下壕の立入禁止区域をタッチパネルで進みながら見学できる展示も用意しています。音声ガイダンスも日本語・英語があり、日本語版は、昨年の大ヒットアニメに出演した、有名声優さんの声なんです。
――か:有名な声優さんって?
――蓑:それも「ひみつ」です。来館されてのお楽しみですね。
――か:ええーっ、館内のカフェでは『夏目友人帳』の登場人物(登場ニャンコ)による熊本県PVも流れていますが、関係ありますか?
――蓑:ここ錦町にも『夏目友人帳』の舞台になった場所がありますが、どうでしょうね。
未来へつなぐメッセージ「もし戦争で亡くなっていたら、君は生まれていない」
――か:館内の図書コーナーでは、『ペリリュー』以外にも戦争をテーマにしたコミックスなどを読むことができますね。
――蓑:絵本もあるんですよ。毎年、8月の終戦記念日頃には戦争の映像が流れますが、原爆や軍艦など、まるで戦争が遠いところで起きたように感じる映像が多くないですか。しかし国内でも、各地で空襲を受けています。この町でも、空襲で基地周辺の住民が犠牲になっているんですよ。
将来の日本を背負って立つような優秀な学生も、勉強の途中で学徒動員された時代。健康な男性が戦地に行った後、家庭に残ったお母さんや子どもたちも、一丸となって戦争をしていた。そういう時代があったんです。
ここを訪れる子どもたちに、「君たちの祖父母や、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの年代の人たちが、一生懸命戦っていたんだ。もし戦争で亡くなっていたら、君は生まれていないんだよ!」と、伝えたいですね。
まとめ:戦争と平和を問い続けるミュージアムとして
コロナ禍での休館に加えて、2020年7月の豪雨災害。修学旅行などの団体は減りました。でもおかげさまで、2021年3月のリニューアル後、熊本県内からの個人のお客様が順調に増え、認知度アップを感じます。コロナが落ち着いたら、全国からも来ていただきたいですね。
今後もミュージアムとして、戦争と平和をどう伝えていくべきか、問い続けます。
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