天草の旅で訪れたい歴史の証人たち 松栄山 東向寺(とうこうじ)
天草は知名度が全国的に高い割には中身を知られていない不思議な地域です。
理由は簡単で、教科書に載ってることに加え「天草四郎」の不思議な存在が時代が変わっても様々な形で扱われることからです。
16世紀にヨーロッパからもたらされた文化、宗教は、その後の天草に大きな影響を与え続けます。コスメ・デ・トーレス、ルイス・デ・アルメイダらによるキリスト教の伝播と天草コレジヨでの活動に代表される繁栄、そして為政者による宗教弾圧。さらに潜伏と復活など、その稀有な歴史は、現在、世界文化遺産に向けて準備がなされていますので、ぜひ、現地へ出向いていただきたいものです。
そこで、天草の歴史を感じ取れる場所に行ってきましたので、少しずつご紹介します。
天草から来ましたというと、キリスト教徒ですか?と聞かれていました。時代がよくわかっていない方からは「キリシタンですか?」と。私は仏教徒ですが、どうやら県外の方にとっての天草はそんなイメージが強いようです。天草におけるキリスト教信者は1,000人前後と聞いたことがあります。天草島民の人口が10万ちょっとでしょうから、100分の1、実際はもっと少ないような気もします。
カトリックの教会は三つ、プロテスタント系がたしか二つだったかな?一方で天草にはお寺がたくさんあります。天草は仏教の島といっていいかもしれません。
ご存じ乱後の天草は幕府による強力な仏教政策がすすめられていきます。その中心的な役割を果たしてきたお寺を尋ねました。
本渡の街を天草空港に向けて北上、中心市街地から5分程走ると「東向寺」「鈴木神社」の場所を示す看板。
左折してそのまま2、3分走ると旧道とおぼしき三叉路に至ります。案内板に従い左に進むとひと際背の高い木々に囲まれた東向寺に到着。
3月初旬、久しぶりに訪れた東向寺はあたたかな日差しが降り注ぎ、庭先では300年を超える老梅が可憐な花をつけていました。
乱後の天草の再興のため幕府より派遣された初代代官鈴木重成は「民心の安定」のため、寺社仏閣の建設を進めていきます。地元郷土史家から聞いた話では、そのことが「公共事業」であって、心身ともに疲弊した島民を救う手段であったとのこと。仏教政策を進めるため、重成公は兄で出家した正三和尚に相談し、山口県の瑠璃光寺、中華珪法禅師に依頼し開山に至ります。
本堂、ご本尊の裏に位置する何と呼ぶか知りませんが、この寺にとって重要な方々の祭壇が安置されている小部屋があります。
正面には開祖、中華珪法像が鎮座。その右側に高さ7~80センチの大きな位牌が十数本林立しています。よく見れば上部に葵の御紋。そのうちの一本は東照宮大権現と読めます!はい、徳川家康他歴代将軍の位牌です!(写真は恐れ多くて撮れませんでした)
幕府にとって天草は「危険な島」、直接目を光らせておかないとまたキリシタンが悪さする。と常に警戒したいたのでしょう。幕府の権威を示したと考えられます。
当時の日本の中でも「特別な」場所であったからこそ「天領」として統治されたと考えられます。
当初は広大な敷地で数十人のお坊さんたちが修行していたそうです。残念ながら天保3年(1832年)、火事で全焼。現在の建物は文政7年(1860年)建立。
本堂の天井絵も見事です。約190枚、和尚さんに聞いたところ、どうも日本にはない草花も描かれているとのこと。
梁の彫刻もダイナミック。品格を感じます。
本堂正面向かって右側の庫裡(くり)の中の戸板にはカラスのような鳥が描かれており、和尚さんの説明では「ハハ鳥」(叭叭鳥)とのこと。
調べてみると、九州国立博物館に幻の屏風絵と言われた狩野永徳「松に叭叭鳥」が所蔵されてますが、よく似ていると思うのは僕だけでしょうか。和尚さんの了解をいただいて写真を撮らせていただきました。昔は餅ついた後、これにのっけて運んだってききました・・・。
本堂の入り口右側に天草の焼き物の歴史を物語る「民吉翁之碑」と書かれた石碑があります。
磁器の原料である陶石は、国内シェアの8割が天草だと知っている人は少ないかもしれません。原料に恵まれた天草では古くから窯元がありました。一方、尾張の国、瀬戸では西日本の隆盛に押され、ずいぶん弱っていたとのこと。そこで陶工をひとり「スパイ」として九州に潜入させることを企てます。
当時、ここ東向寺は瀬戸(当時は菱野村)出身の天中和尚が住職をしており、それを頼って天草で修行をしたとそうです。長崎での修行を経て帰郷、その結果良質な磁器の生産に成功、民吉はその功績により苗字帯刀が許され、亡くなってから「磁祖」とよばれるようになったとのこと。
天草の乱後の中心に据えられた東向寺を知らずして、天草の歴史は語れないと思います。
住所:熊本県天草市本町新休27-1
電話:0969-22-3384
駐車場あり。
※観光施設ではありませんので、見学は節度をもって。内部撮影は了解を得てください。