被災古材の活用で人と人をつなぐ! 珈琲豆移動焙煎のLiNK ROASTERS
熊本「令和2年7月豪雨」の記憶を繋ぐ移動焙煎車LiNK ROASTERS(リンクロースターズ)。杉谷さんが珈琲で紡ぐ"絆"とは?被災材活用の感動秘話と温かい一杯に込められた復興支援の想い!

インスタ依頼で出店してくれる、移動焙煎車
『焙煎豆珈琲屋LiNK ROASTERS(リンクロースターズ)』さんは、焙煎機を積んだ移動販売の珈琲店。熊本県内のどこで買えるかは、インスタで最新情報を見てくださいね。
「リンク」とは、つながり。何をつなぐの?
人と人、地域と地域、応援する人とされる人をつなぐ……というのがコンセプト。
実は、この移動焙煎車には、2020年の豪雨で被災し解体された、熊本県八代市坂本地区の家々の木材が再生活用されているのです。
車内で自家焙煎したコーヒーは、ホット・アイスとも1杯400円で、量り売りの焙煎豆は50g500円~(税込)。
「大きな災害に見舞われた熊本では、被災地応援の気持ちを持った珈琲屋さんがたくさんいらっしゃいますよね。将来は、そんな焙煎家さんたちの豆も販売して回りたいとも考えています」と語るのは、リンクロースターズの杉谷憲一さん。
え、ほかの人の焙煎?
「俺の焙煎した豆が一番!」とか、「ハンドドリップにこだわる!」とか、豆や美味しさ推しじゃないんですか。
自家焙煎豆の移動販売をやっている理由は、実は「コーヒーが好きだから」ではないのです。
偶然訪れた球磨川沿いで、人生を変える風景が!
2021年、東京のサントリーホールディングス株式会社(以下サントリー)の社員だった杉谷さん。
釣り好きな彼は、私用で人吉市を訪れた時に「尺鮎で有名な球磨川で釣りができないかな」と思いつきました。観光気分で球磨川沿いに八代市坂本町へ向かうと、驚きの光景が目に飛び込んで来ます。
「水に浸かって放置された家屋がたくさんあり、球磨川沿いの木々や電線には流された家財道具や衣服などがぶら下がったまま。道路は何箇所も崩れている。1年前の水害の爪痕がすごくて、もう釣りどころじゃなかったんです」
代々培った家族の記憶、地域の歴史、文化が詰まった大切な家屋が、かつて来たことのない高さの水害に遭っていました。地元の材をふんだんに使い、思い出の詰まった家屋は水浸しになり、解体された材は災害ごみとして焼却処分されるしかありません。
当時、杉谷さんはサントリーの新事業プロジェクト「焙煎豆珈琲屋 RR(レストレーション・ロースターズ) COFFEE事業」(以下RR COFFEE事業)に参画していました。
レストレーションとは、「元の状態に戻す・病や苦しみを癒す」といった意味があります。
この名に込められた想いは、「コーヒーを通して人間の生命(いのち)の輝きを取り戻したい(Restoration)という目的と、RR COFFEE自身も、モノやサービスではなくヒト(Roasters)でありたい」というものです。
被災地レストレーションに貢献するには?
『令和2年7月豪雨』の被災地に、自分で役立てることが何かないか? そう考えた杉谷さんは、RR COFFEE事業で使う移動焙煎車での被災地訪問を思いつきます。
そんな杉谷さんが出会ったのが、Rebornの溝口隼平さんです。
坂本町に移住して8年の溝口さんは、リバーガイドと林業とで生計を立てていました。しかし水害で仕事場が跡形もなく流され、自宅も損壊してしまったのです。
ところが溝口さんは、「坂本地区の皆さんにはお世話になってきた。その方々の生活の記憶が詰まった材を、災害ごみになんかしちゃいけない」と、ボランティアに来た人達の力も借りながら手作業で材をはずし、泥を洗って、被災した自宅に保管していたそうです。
被災者でありながら、移住先のために活動する溝口さん。
その姿に感銘を受けた杉谷さんは、RR COFFEE事業チームに、水害のため泥で汚れたり、曲がったりしてしまった材を活用することを提案したのです。
それから1年かけて、被災した古材を使用した移動焙煎車が完成!
豪雨災害から約2年がたった2022年6月下旬、坂本町・人吉市・球磨村・益城町にてRR COFFEE事業の被災地応援チャリティツアーが企画されました。まだ多く残る仮設住宅や復興祈念施設で、焙煎したて・淹れたてのコーヒーをふるまいました。
このツアーでハンドドリップしたコーヒーは約400杯! 喜ばれたでしょうね。
「あの水害から2年がたった時点で、まだ仮設住宅を離れられない人たちには“取り残された感”がありました。コーヒーをふるまっていると、あるおばあちゃんが素敵なマスクを何枚もプレゼントしてくれたんです。誰に渡すというわけでもなく、コツコツ手縫いされていたそうです。他にも別の仮設住宅まで追っかけてきて、ふかしたてのおまんじゅうをたくさんくださるとか、色々返してくれるんです。いや、コーヒーより高いでしょうって」
被災者も支援を受けるばかりではなく、誰かに「ありがとう」と言われる機会があって二重に嬉しかったのでしょうね。
「サントリーでやっていたのは、コーヒー豆をオンラインやオフラインで販売する事業。でも被災地を毎年1回、3年間訪問して気付いたのは、自分たちが売っているのは、ただのコーヒーや珈琲豆じゃない。ホッとする一瞬や、誰かとつながるコミュニケーションのきっかけを提供しているんだということでした」と語る杉谷さん。
移動焙煎車で、リンクする時間や空間を創る
杉谷さんは、2024年1月に思い切って退社! 奥様と共に関西出身なのに、縁もゆかりもない熊本に自らリンクを創り出し、移住して来られました。
RR COFFEE事業チームも彼の思いに賛同してくださり、彼はコーディネーターとして業務委託を受ける立場になったのです。
しかし、同年9月、RR COFFEE事業の終了が決定。せっかく被災した材を燃やすごみにしないために作った焙煎車なのに、廃車になるかもしれない状況になります。
「焙煎機を積んだキッチンカーは、サントリーで2台保有していました。うち1台を、ゆかりのある熊本に里帰りさせてほしい、とサントリーから一般社団法人看護のココロさんに払い下げてもらったんです。そうして名前をリンクロースターズに改め、再始動させました」と杉谷さん。
廃車を免れ、再生した移動焙煎車は阿蘇郡高森町のNokats(ノオカツ)Baseなど、様々な場所に出向いています。インスタで依頼すれば、つながりのきっかけづくりに、熊本県内どこでも来てくれるそうです。
被災材のカウンターに置かれた、けん玉は何?
一発で3個とも入れられたら、コーヒー無料サービスだそうです。
成功率は500人に1人だとか。ぜひチャレンジしてみて!
また、(一社)看護のココロさんが甲佐町の谷田(やつだ)病院で月イチ開催する「みどりの保健室」には、協働出店しています。
ぜひ、Instagramで出店情報を確認して、杉谷さんの淹れる美味しいコーヒーを味わいに訪れてみてくださいね!
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