第四回【熊本を代表するSF作家!梶尾真治先生】その世界を楽しむ②『クロノス・ジョウンターの伝説』
本に埋もれ、本が無いと生きていけない生活を送るミセ@ブックソムリエ。そんな彼が今回紹介するのは、熊本在住のSF作家 梶尾真治先生の『クロノスジョウンター』について。。22年の間に7冊も版型や出版社を変えて発売された驚異の作品。想いを遂げるために過去へ、しかしそこには代償が...。他のタイムトラベルモノとは一線を画すギミックが、読者を作中の当事者たちとシンクロさせる!
みなさんこんにちは。蔦屋書店熊本三年坂で書店員をしています三瀬です。
前回、熊本を代表するSF作家である梶尾真治先生の「黄泉がえり」を紹介しました。
第三回【熊本を代表するSF作家!梶尾真治先生】その世界を楽しむ作品紹介①『黄泉がえり』
今回は梶尾先生が描くタイムトラベル・ロマンスの大傑作『クロノス・ジョウンターの伝説』をご紹介します。
時間を扱った作品は前々回の『未来のおもいで 白鳥山奇譚』もあります。梶尾先生の”時間もの”でも”クロノス・ジョウンター”という時間を遡ることができるマシンが関係する物語は、ファンの間でひとつのカテゴリーとして分類しています。
この写真を見た方は「あれ?なんで3冊も同じタイトルの本があるの?」と思われたのではないでしょうか。『クロノス・ジョウンターの伝説』は1994年の刊行から2015年までの22年間で、なんと7冊も版型や出版社を変えて発売された驚異の作品なのです!
なぜこれほどまでに人気があるのか。それはこの作品が「人の想いを過去や未来へ繋ぐ人たちの物語」だからだと私は思います。そこに読者は感動し、愛や勇気を読みとり、かけがえのない読書体験を得るからだと私は考えます。
数ある書籍版で私が所持しているのは3冊。古い順にソノラマ版・朝日ノベルス版・徳間文庫版となります。私が最初に手に入れたのはソノラマ文庫版です。購入したのはもう何十年も前になりますね。
現在は徳間文庫版が新刊書店で購入でき、クロノスに関わる全ての作品が収録されていますし、巻末には時系列の年表が掲載されています。(これが重要!)
なぜ時系列の年表が重要なのか?それはこのタイムマシン『クロノス・ジョウンター』の特性に関連してきます。
クロノス・ジョウンターというタイムマシンは、「時間軸圧縮理論」を採用した「物質過去射出機」という機械になります。つまり搭乗して運転する”ド〇〇もん”タイプのタイムマシンではなく、人間や物体そのものを過去へと”送り出す”だけの機械なのです。
そして、過去に遡る年数の長さに比例して、もとの時代よりも遠くの未来へ運ばれてしまいます。それはまるで伸びきった輪ゴムが戻る反動のようです。しかも過去への滞在時間はごくわずか、とても短い。この短い滞在時間(本人はいつ未来へ飛ばされるのか不明確)が曲者なのです。
この二大要素が物語をより複雑に、過去改変を困難なものにしていき、読者に当事者たちと同じような苦悩を共有させます。
ここで皆さんに問いますが、人が過去へと戻りたがる理由はなんでしょうか?
それは大事な人を過去にある事件から助けたい、守りたい、あの時の後悔を償いたいという気持ちではないかと私は思います。この想いを遂げるために、作中の登場人物たちは過去へと果敢に跳躍し、自分自身を省みず、一縷の望みを持って”時間”という相手と対決するのです。
そんな強い意志をもって過去改変を果たそうとしますが、やはりそれは一筋縄では達成できません。様々な要素(滞在時間が短いのもそのひとつ)が作中人物たちへと立ちはだかり、物語をハラハラとした緊迫感と焦燥感を与え、さらに面白くさせていきます。
跳躍時間により、出発時間よりさらに先の未来へと飛ばされるという設定、これが他のタイムトラベルものとは一線を画すギミックとなっていますね!
飛ばされた未来の時代によってはすでに開発会社が存在してなく、クロノス・ジョウンターがどこにあるのか分からないので、まずはそれを探すとこから始まったりします。
また別の未来では、クロノス・ジョウンターが博物館に収蔵されていたりして、そこに潜り込むまでの展開であったり、状況設定がさらなるストーリーの面白さに繋がっているかと思います。
この捜索するフェイズが挿入され、ミステリー的な要素が入り、幅広い層の読者が楽しめる作品に仕上がっているのではないかと考えられます。
この作品は2019年に『吹原和彦の軌跡』を原作として映画化もされています。
監督は蜂須賀健太郎。主演は『鬼滅の刃』で我妻善逸を演じる下野紘。ヒロインは『仮面ライダーゼロワン』で仮面ライダーバルキリーを演じた井桁弘恵。
熊本のDENKIKANで特別上映がされた時は、蜂須賀監督と梶尾先生のトークイベント&サイン会も開催されました。
その時にパンフレットに描いていただいた梶尾先生と蜂須賀監督のダブルサインはお宝です。
映画は2005年にも『鈴谷樹里の軌跡』を原案とした『この胸いっぱいの愛を』が公開されています。ただしこちらは2019年版に比べ、同書収録の他の短編の人物名や設定も取り込んで大幅に翻案したものとなっています。
クロノスは2008年に劇団キャラメルボックスが、『きみがいた時間 ぼくのいく時間』として舞台化もしています。
キャラメルボックスさんはクロノス・シリーズを他にも7作品舞台化(うちオリジナル新作2点)しています。活動拠点が首都圏なので、熊本の公演がないのは寂しいですね。いちど生の舞台を観劇したいと思っています。
2022年には初の長編作品としてタイムマシン誕生秘話を書いた『クロノス・ジョウンターの黎明』も発売されました。これまでは短編だけだったんですね。ちょっと驚き。
こちらは徳間書店のフリーマガジン「読楽」に、2021年12月号から2022年7月号まで連載されていました。
熊本はもともと「読楽」の入荷数は数冊と少なかったのですが、梶尾先生の連載ということで、私が徳間書店の編集さんにお願いして毎回15冊店頭に準備していました。それでも数日(ほぼ2日間)で店頭から無くなり、あらためて梶尾先生の人気の高さを肌で感じる機会となりました。※私は編集部から献本として毎月1冊送っていいただいてました。ありがとうございます!
梶尾先生は無類の映画好き。『クロノス・ジョウンターの黎明』は、8mmフィルムに残った女性をめぐるストーリーで、シリーズ初の長編として最適な題材だったと思います。
このように『クロノス・ジョウンター』の物語は、今も梶尾先生の手によって生み出されていっています。これからも楽しみですね。ここまで読んでくれた方は、きっとこの作品が読みたくなったはず!ぜひ蔦屋書店熊本三年坂、もしくはお近くの本屋さんで『クロノス・ジョンター』を買って読みましょう!
そして、梶尾先生に新作を書いていただきましょう!それがミセ@ブックソムリエが一番伝えたかったことです!さあ本屋さんへGO!
今回はタイムトラベル・ロマンスの大傑作『クロノス・ジョウンターの伝説』を紹介しました。
次回はSFヒロインと言えば必ず名前が上がる、梶尾先生が生み出した地球誕生からの記憶を持つ女性が主人公の『おもいでエマノン』を紹介したいと思います。
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