【熊本の女性林業家】森を愛し、人を愛す。異業種から挑んだ國武信子さんの物語
「林業は男性の仕事?」いいえ、異業種から挑戦し活躍する女性がいます!なぜ彼女は林業を志したのか。熊本・國武林業の國武信子さんの、愛と情熱あふれる物語に迫りました。

🌲 この記事の目次 🌲
熊本の林業に”レジェンド”と呼ばれるパワフルな女性がいた!
最近、メガソーラーが話題になっていたり、山が荒れることによる土砂災害、田畑への獣害などで、山や森の大切さを改めて感じている人も多いのではないでしょうか?
我らが、熊本林業研究会グループ連絡協議会の、愛される会長である國武智仁氏。
お母様であられる國武信子さんは、まったくの異業種から林業を始められ、今や林業界のレジェンドとして活躍されている、大変稀有な存在!
林業関係のイベントや講座で、全身タイツに身をくるんだ「安全星人」として安全の大切さを訴え続け、林研グループの真面目な総会の挨拶でも、冒頭から唐突に歌い出す-。
そんな破天荒で型破りな國武智仁会長を育てあげたのは、どんな女性なのか!?
そんなことも知りたくて、國武信子さんに、林業のこと、自然のこと、いろいろとインタビューしてきました。
9月には國武林業で、林業に親しめる楽しいイベントも開催されるようなので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね!
【熊本・御船町】緑豊かな七滝で「國武林業」を訪ねて
國武林業を創業された國武信子さんがいらっしゃるのは、御船町中心部から山都町へと向かう中山間地域である七滝。
自分たちで切った木で作ったという、國武林業のぬくもりのある事務所で、國武信子さんにお話をお伺いしました。
事務所の奥にある素敵なテラスから見える景色は、美しい緑の山と空。そして、眼下には、信子さんがされているという田んぼが広がります。
自然豊かなこの土地で、まったくの異業種から林業に携わり、会社まで立ち上げてしまったという、パワフルで芯のある信子さんの生き方にせまりたいと思います。
異業種から林業の世界へ。「私がやるしかない!」と一念発起
信子さんは福岡のご出身で、結婚を機に熊本に来られたのだとか。「自然の豊かなところに移住したい」と思われていたところ、ご縁があってここ七滝の地へ…。
もともと、介護やヘルパー、フリースクールでのお仕事をされていたそうですが、「七滝で生業を持ちたい」と、地元の方に教えてもらいながら、筍や椎茸の生産、竹林整備にも携わられてきました。
当時は、竹あかりで有名なちかけんに、竹を売ったりもされていたそうですよ。
そんな暮らしを営む中で、山が荒れているのにも関わらず、環境問題の最後の砦ともいえる、林業の担い手が誰もいないことを懸念されていた信子さんは、「誰もいないなら、私がやるしかない!」と一念発起。
「切って切って、切りまくる女になる!」と意気込み、阿蘇の山部さんという山師さんのところにアルバイトに行かれたのだそうです。
まあー、なんともカッコイイ女性です。
師との出会いが原点。息子と共に歩み始めた林業の道
「木材の販売目的で針葉樹ばかりになってしまった山を、広葉樹もあり、生物多様性のある豊かな山にしたい!」という想いを持つ山師・山部さんのもとで、若い人たちとひたすら木の伐倒や植林、下草刈りに明け暮れる日々。
信子さんの長男であり、現在、熊本林研の会長を務める智仁さんも一緒に、林業の仕事に参加されていたそうで、七滝から阿蘇まで通いながら、そこで林業の仕事を徹底的に教わることになりました。
木を切る時に、「痛くないように切ってやるけんな」と優しく声をかけ、愛と敬意をこめて木を切られる職人・山部さんの姿に、当時は林業に興味もなかった智仁さんも、深く胸を打たれたそうです。
ご本人たちは、「山部さんに騙されて…」とおっしゃいますが、晴れて、親子そろって林業の世界へと入られました。
阿蘇の山に通い詰める生活の中で、ある日、山部さんから、「そろそろ地元の山ばせんか」と言われた信子さん。
それならば、と息子の智仁さんと一緒に、七滝で林業の会社「國武林業」を起業されることに…。
会社を立ち上げ、七滝を拠点に、本格的に林業の仕事を始められました。
命がけの「特殊伐採」と、社員を守る”かあちゃん”の深い愛情
撮影:坂本 和代 ※画像は國武林業ホームページから引用
國武林業が引き受ける仕事の7割は、特殊伐採という、リスクも伴う大変危険な仕事。
通常の山の中ではなく、住宅が密集している場所や、電線のあるところ、重機が入らないところなど、極めて危険性や難易度が高い場所での伐採を請け負われています。
一瞬のミスが重傷や死亡につながる、ギリギリの仕事なので、それだけに、より高い技術や経験、安全性が求められます。
そんな特殊伐採を引き受けられている國武林業は、JLC(日本伐木チャンピオンシップ)の競技会に出場してチェンソーの腕を磨いたり、月に一度はスキルアップ研修を行うなど、常に技術の向上と、徹底した安全確保に努められています。
社員の安全を守るため、朝はひとりひとりの顔色を見て、体調や精神状態を確認し、それぞれの技術に合わせて仕事を振っていくという信子さん。
「会社に来てもらう時間とか考えれば、社員さんには直接現場に行ってもらってもいいんだけど、やっぱりその日の顔色を見ないと、体調とかよくわからんから…」と話される信子さんの言葉に、なんだか涙が出そうになりました。
どれだけ技術やAIが発達しようと、社員ひとりひとりを大切にし、毎日顔を合わせて気持ちや体調を察し、事故がないように、そして、ひとりひとりの悩みや不安に気づけるように…と配慮される姿を知り、「これは人の愛でしかないなぁ」と心から感動しました。
でも決して、心配ばかりされているわけではなく、ひとりひとりに絶大な信頼も置かれているのです。
そんな、社員ひとりひとりの「みんなのかあちゃん」のような、元気で愛があって、笑顔がまぶしく温かい信子さんは、太陽のような存在です。
「廃材なんてない」ーすべての命を活かし、敬う心
そして信子さんの愛は、人だけではなく、自然の中に生きる生き物たち、そして木の1本1本にも及びます。
「よく、『廃材をください』なんて言われることがあるけど、廃材なんてないんです」と話される信子さん。
木のひとつひとつが、何十年、何百年もかけて、太陽と雨と風の中で成長し、歴史を見て、あらゆる生命を育ててきた、大切な大切な命だから-。
切った木に優劣だとか、廃材だとか、そんなものはなく、「すべて大切にしてあげたい」という想いで、「木を活かす」目的で「KEYCUS(キーカス)」というプロジェクトも立ち上げられました。
こちらは、ヒノキを使用したブローチやピアスなどのアクセサリー。3つのピースをパズルのように組み合わせると、長方形になるようにデザインされています。
当初は、「切った木を活かしたい!」という想いで始められた取り組みですが、時を経た今は「木に活かされている」、「森が私たちを楽しませてくれている」という捉え方に変わってきたのだとか。
「枯れ木だって、たくさんの生き物たちの住処になっている。
昔、枯れ木を切ろうとしたところ、地元のおじちゃんに、『枯れ木まで切らんでよか。枯れ木も山のにぎわいぞ』と言われたことがあったのですが、本当にその通りだな、と思うんです」と話される信子さん。
枯れ木だって、たくさんのいのちの住処になるという大切な役割を果たしていて、本当に世の中に無駄なものなんて、なにひとつないことを思い知らされます。
最近、皆伐された吉無田高原近くの山を買われたそうで、今後は「そこで一から森づくりをしていきたい!」と笑顔で夢を語られます。
「しっかりと植生調査を行い、周辺から種や苗をとって植えていって、地域の人たちみんなが楽しめる山を作りたい!」と話される信子さんは希望に満ち溢れていて、キラキラと輝く、明るいエネルギーを感じました。
【2025年9月15・16日開催】木と触れ合う「板フェス」で森の魅力を体感!
そんな國武林業で、2025年9月15日(月・祝日)・16日(火・山の神の日)に「板フェス」が開催されます。
・「KEYCUS」の商品の販売
・チェンソーの実演
・カエル釣り
・地元のお店のドーナツやコーヒーの販売
などなど、大人も子どもも楽しめる、ユニークなコンテンツが盛りだくさん!
貴重な一枚板の販売もあり、世界に一点しかない、お気に入りの板も見つかるかも…!?
信子さんや智仁さんの笑顔にも癒されること間違いなしです!
皆様もこの貴重な機会に、木や森の世界に、気軽に触れてみてくださいね。
おわりに:森と共に生きる”レジェンド”の想いを未来へ
全産業の中でも、労働災害の多い林業の世界は、危険も伴う大変な仕事です。
しかしながら、水源涵養や生物多様性の保全、災害防止機能や環境保全など、たくさんの機能をもつ森を守っていく林業の仕事は、人間の暮らしには絶対に欠かせない第一次産業。
自然を愛し、森を愛し、人を愛し、熱い想いで國武林業を創り上げてきた信子さんの、深い愛とたくましさ、芯の強さは、ただひたすら尊敬するばかりで、間違いなく、熊本の林業界が誇るレジェンドです!
皆様もぜひ、山のこと、森のことに心を寄せてくださると嬉しいです。林業界の盛り上がりが、きっとあなたの暮らしと地球環境、そして心を豊かにしてくれると思います!
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