【熊本・天草の林業ルポ】牛深の雑節づくりを支える極上の薪と想い
牛深の雑節づくりに欠かせない薪。熊本・天草の豊かな自然の中で広葉樹を切り出し、私たちの暮らしへと届ける林業現場の最前線と職人たちの想いを取材しました。
目次
私たちの住んでいる木造の家や、テーブルなどの家具、そしてお椀やお箸など、暮らしの中に息づいている木の存在。
キャンプで焚火をしたり、薪ストーブで暖をとったりと、火を囲んで過ごす時間を楽しまれている方も多いかもしれないですね。
そんな薪ですが、「こんなところにも使われていたのか!」と意外に思ったのが、牛深で作られている雑節。
皆さんは、「雑節」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?
かつおを原料にした節が「鰹節」と呼ばれるのに対し、サバやイワシ、アジなど、かつお以外の魚から作られる節を総称して「雑節」と呼びます。
うどんやそば、おでんのつゆなど、和食に欠かせない「だし」の材料として使われており、魚それぞれの持ち味を生かした、豊かな香りと力強いうまみが特徴です。
この雑節づくりに欠かせないのが、薪の存在。
魚を海水で煮たあと、薪を焚いて燻製することで、魚の水分を抜きながら、うまみをぎゅっと凝縮させていくのですが、その燻製に使われているのが、天草の豊かな森で育った広葉樹から作られた薪なのです。
日本一の生産量を誇る牛深の雑節。
その雑節作りに欠かせない薪を製造している現場を取材で訪ねてみました。
天草の山の作業現場へ
熊本市内から2時間半ほど車を走らせ、天草の下島へ…。

車窓から美しい海の景色を眺めながら、河浦町へと向かいました。

今回訪ねたのは、天草の山で薪づくりをされている、WoodSurf薪心(ウッドサーフまごころ)合同会社の榎田徳貴さん。
天草市河浦町にあるさざんか公園で待ち合わせ後、「山の中は道が悪いので…」と車に同乗させていただき、作業現場へと案内していただきました。

驚きの運転技術で細い山道を進む
ガタガタと凹凸もある狭い山道を上っていき、
現場まではこの細い道を、なんとバックで走行!!

するすると驚くほど器用に運転していただき、作業現場に到着しました。

木々が茂り、写真では遠くまでは見えませんが、山の上で大変見晴らしが良く、美しい景色が眺められます。
「この景色が見られるのは、この仕事の特権ですね」と榎田さん。

山の中に、機械を入れるための道もしっかりと作られていました。
天草の薪に太鼓判
厳しい環境が育む良質な広葉樹

こちらが、山から伐り出されたシイやタブノキなどの広葉樹。
細いものから、樹齢70年を超えるような立派なものまで、たくさんの木が積み上げられています。

こちらにあるのはカシの木。堅い木と書いて「樫」の名の通り、国産材でもトップクラスの硬さと重さを持つ木です。
「天草の木は、海からの風も強く、厳しい環境の中でたくましく育っていて、とても良質な木が育っている。それだけは胸を張って言えます!」と、榎田さんは太鼓判を押されます。
天草の山の6割は広葉樹なのだそう。
「広葉樹は生命力も強く、非常に硬く、木目も美しいので、家具や建材など、まだまだ可能性があると思う」と、これからのさらなる活用にも期待されていて、天草の山の木々たちへの愛情を感じます。
取引先の方からも、「いろんな薪を使ってみたけれど、一番良い薪だった!」、「火持ちが良く、燻製する時に煙が長持ちする」といった声をいただくことも多く、「そういった声が本当に励みになります」と、やりがいを感じられています。
現場で汗を流すプロたち
針葉樹に比べ、広葉樹は重さもあるため、現場で働く人たちの苦労も並大抵ではありません。
負担も大きいので、アシストスーツなども取り入れ、体への負担を軽減しながら作業を行われているのだそうです。
安全第一で行われる「玉切り」
こちらは、伐採した木を用途に応じた長さに輪切りにして、丸太にしていく「玉切り」という作業。

従業員の方々が、安全管理に最大の注意を払い、ヘルメットや安全靴、防護パンツなどを着用し、機械音を響かせながら、チェンソーでの玉切りをされていました。
林業の現場では、「上下作業はしない」というのがルールになっていますが、距離が離れていれば大丈夫かと思いきや、たとえ離れていても、石や木が転がってきてケガをしたりと、思わぬリスクが潜んでいることも…。
ちょっとした判断ミスが事故につながってしまうため、安全管理には十分注意しながら、しっかりコミュニケーションも取り合い、チームで一生懸命作業をされていました。

薪割り作業の現場
丸太を薪にしていく、薪割り作業の現場も見せていただきました。

こちらが、エンジン式の薪割り機。
この台の上に丸太を乗せ、左の刃をスライドさせて薪を割る仕組みになっています。

機械と手作業が交差するダイナミックな現場
太い丸太が、あっという間に薪になり、機械の力に驚かされます。

そして薪を束ね、クレーンでトラックの荷台へと積み上げ、運び出します。
水産加工場によって、必要とされる薪の大きさも異なるそうで、加工場に応じたサイズで納品されています。
山の中で、大きな機械も使いながら、伐倒、玉切り、運搬、薪割りまでこなされる、ダイナミックな現場に圧倒されました。
山と自然への敬意
今年で独立して9年目になるという榎田さん。

「昔は木だけしか見ていませんでしたが、今は山を見るようになりました」と話されます。
伐倒しながら、山の中の日当たりや、水の涵養のこと、そして、生物多様性について考えたりと、目の前の木だけでなく、山全体を見るようになり、視野が広がってきたのだと言います。
「まだまだできていませんが…」と苦笑されていましたが、命ある山や、自然へ対する想いがしっかりと伝わってきました。
榎田さんは木に宿るものを大切にされており、木を伐る前には、「今から伐るので、よけてください」と木に語りかけてから1本1本伐倒されているのだそうです。
山で長く生き続けている木々や、自然への敬意を忘れることはありません。

最近、すべてがつながっていることを実感されているという榎田さん。
「山が水を育て、その水が川となり、そして地下水となり、最終的に海へと流れ、牛深で美味しい魚がとれる」。
山も海も、すべてがつながっていることを、山の現場でひしひしと感じられています。
「こうして林業をしているのも、自然に動かされているというか…あやつり人形のようなものです」と明るい笑顔で話されていました。
すべての人に支えられて
山主さんからの温かいご協力や素敵なご縁に恵まれ、取引先の方々からも「天草の薪」を高く評価していただいている榎田さん。「皆様のおかげで仕事ができています」と、常に周囲への感謝と謙虚な姿勢を忘れません。

危険も伴う現場で、安心して仕事を任せられる従業員の皆様も、チームであり、仲間であり、支えてくれる存在。
また、熊本県は、林業関係の育成・研修制度が充実していて、「それも本当にありがたいです」と話されていました。

丸太を運ぶフォワーダーや、薪を運ぶトラックなど、現場で必要不可欠な機械類も多いですが、県の補助金も活用しながら導入されており、「本当に皆様のおかげでこの仕事ができています」と、周囲への感謝を忘れず、まっすぐに仕事に打ち込まれていました。
そんな仕事一筋の榎田さんを陰で支えられているのが奥様の存在。
「暗くなっても、配達に行ったりして、なかなか家に帰ってこない時もあって…」と心配しつつも、4人の子どもたちを育て、榎田さんをそばで支え、見守られている奥様の深い愛情も感じました。
こうして、たくさんの人に支えられながら、好きな仕事に打ち込めること。
そして日々、それを感じながら仕事をされている榎田さんは、仕事への姿勢や技術面もさることながら、人間味のある方で、生き様やあり方にも感銘を受けました。
山から私たちの暮らしへ
熊本が全国に誇る牛深の雑節。
この雑節に欠かせない薪を作る現場では、暑い日も寒い日も現場に出て、汗を流す林業従事者の姿と想いがありました。
このような山の現場を知ると、日頃食べている雑節や、焚火やストーブで使う薪を見る視点が変わったりするかもしれませんね。
「天草の薪は、本当に良質で素晴らしいので、地元の人たちにも誇りに思ってほしいし、皆様の暮らしの中で愛される木になってほしい」と話されていた榎田さん。「林業をやってみたい」という方も募集されており、やる気や興味さえあれば、技術や経験はなくても大丈夫とのこと。
今回は、天草の山でたくましく育った素晴らしい広葉樹を、私たちの暮らしへとつなぐ山の現場をご紹介しましたが、山も、私たちの暮らしも、海も、こうしてつながっていること、そして、山で働く人たちに、少しだけ思いを馳せていただけると嬉しく思います。
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